認知能力とは5つの力
木を切るときにはノコギリを使いますよね。
勉強するときにも、使う道具(脳の力)があります。
それが認知能力です。
具体的には
①注意集中する力 ②見る力 ③聞く力 ④記憶する力 ⑤想像し、考える力 です。
ここでは、これらの能力と、学習がどのように関係するか解説したいと思います。
注意集中する力
- 勉強に集中できない・すぐに飽きる
- よくケアレスミスをする
- 勘違いが多い
- 物をよくなくす
- ケガが多い
これらの様子が見られる子は、注意集中する力が苦手と考えられます。
注意・集中ができないと、落ち着いて聞くことも、見ることもできないので、正確に記憶することもできません。
じっくり考えることもできません。
このように、注意・集中力は、すべての認知能力の土台となる力です。
見る力
- 漢字を正しく写すことができない
- 音読を間違える
- 算数の図形問題が苦手
これらの様子が見られる子は、見る力が苦手と考えられます。
見る力は、視力だけではありません。
目を動かす力(眼球運動)や、形や大きさなどを正確にとらえる力(視覚認知)が学習には大きく関わります。
たとえば、目を動かす力が弱いと、音読で行を読み飛ばしたり、勝手に文章を変えて読んだりなど、文章を読むのが苦手になる原因となります。
またボールを追うのが苦手になるなど、スポーツの苦手さにもつながります。
また漢字を正確に覚えたり、書字をするためには、視覚認知の力が必要です。
例えば、漢字の線の本数をよく間違えている子は、次のように見えているかも知れません。
細かい線を見ようとすると、他の線に影響されてしまい、線が何本あるのか分からなくなってしまうのです。
注目した情報だけ取り出す力(図と地の弁別能力)が弱いのです。
また、見る力は頭の中でイメージする力の基礎となります。
たとえば、視覚認知が苦手だと、次のような算数の問題は苦手になります。
視覚的なイメージが必要な例題
三角形ABOの点対称の図形を描きなさい
聞く力
- 聞き間違いをする
- 少し長い説明や、複数の指示だと理解できない
- 文字を読むのに時間がかかったり、読み間違える
- 説明したり、作文が苦手
このような苦手さがある子は、聞く力が苦手と考えられます。
えっ、文字を読むのは見る力なんじゃないの?と思われた方もいると思います。
文字を読むときには、心の中で音に変換していますよね。
あれは耳こそ使っていなくても、脳の中の聞く力を使っているのです。
聞く力は、すべての言葉を使う活動の基礎となります。
学習活動のほぼすべてが、言葉を使って行われる以上、この力が苦手だと、学力全般が苦手になります。
記憶する力
- 聞いたことをすぐに忘れてしまう
- 少し長い説明や、複数の指示が理解できない
- 漢字や、書き順が覚えられない
- じっくり考えるのが苦手
- 暗算が苦手
このような様子がある子は、記憶する力が苦手と考えられます。
情報は目と耳からインプットされるので、見る力、聞く力が土台になって発達していきます。
ではいきなり実験です。
「47+26=」という計算を暗算してみてください。
答えは73です。「47+26=」をどのように計算したか見てみましょう。
①7と6を覚えておく ②7+6=13 を計算する。
③10と3に分け ④4と2を思いだし ⑤4+2+1=7 を計算し
⑥3を思いだし ⑦73 と答える。
どうでしょうか。
暗算するために、これだけの記憶が必要となります。
特に、暗算するために、途中の計算を一時的に覚えている必要があったと思います。
この一時的に覚える力を、特にワーキングメモリと言います。
ワーキングメモリは、心のメモ張とよく例えられます。
ワーキングメモリが弱いと、7+6をやっている間に10の位の4と2を忘れたり、4と2を思い出している間に、7+6の計算
結果が分からなくなってしまいます。
また人が物事を考える時には、記憶している、たくさんの情報を材料に考えていきます。
このワーキングメモリが弱いと、考えるために必要な材料を用意できないので、深く考えることができません。
そのため、ワーキングメモリの高さと学力の高さほぼ比例すると言われているくらいです。
また、漢字を覚える場合はどうでしょうか。
たとえば、「想」という漢字を、繰り返し書いて覚えるとします。
ワーキングメモリが弱い子はどうなるでしょうか。
ワーキングメモリは一時的に覚えておく力です。
これが弱いと、「木」を書いて、次の「目」を書いていると、さっき書いた「木」の記憶が消えていきます。
そして「心」を書く頃には、「相」の記憶が消えていきます。
書き終わったときに覚えているのは、最後の「心」だけです。
これでは、何度繰り返し書いても、漢字を覚えられませんよね。
想像し、考える力
- 算数の文章題が苦手
- 全般的に理解力がない
- じっくり、深く考えることが苦手
- 先を予想するのが苦手
このような傾向があるお子さんは、想像し、考える力が苦手と考えられます。
算数の文章題が苦手、という相談をよく受けます。
次の問題をご覧下さい。
文章題が苦手な子の例題
60円のガムが5こと、100円のジュースを2つ買いました。
全部でいくら支払えば良いですか。
正解は500円です。
しかし、このような問題を出すと、167円と即答で答える子がいます。
出てくる数字の関係性が理解できず、全部の数字をたしているのです。
このような珍回答をしてしまう子にも、これを絵で表わしてあげると解けたりします。
つまり、絵的にイメージする力、つまり、見る力の部分でつまづいているわけです。
①注意集中する力 ②見る力 ③聞く力 ④記憶する力 が育ってくると、自ずと、⑤の想像し、考える力も育っていきます。
認知能力は社会人になってからも必要
ここまで、認知能力と学力の関係についてお話ししました。
しかし、これらの能力は学力だけに必要な訳ではありません。
学校を失業した後、就職し、社会人となるでしょう。
その時に、よほどでなければ、学校で習った因数分解を使って仕事をしないと思います。
就労活動で使われる力は、この5つの力である、認知能力なのです。
注意力がなければ、仕事で重大なミスをしたり、事故につながるかも知れません。
見る力・聞く力・記憶する力が弱ければ、仕事が覚えられません。
また、想像し、考える力が弱いと、自分の行動の結果を予測するのが苦手になります。
そのため短絡的な行動をし、対人関係に問題を抱えてしまいかねません。
お子さんが、将来幸せに生きていくために、一番必要な力は、認知能力といっても過言ではありません。